子供と旅
田山花袋
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)長い/\汽車
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明治四十四年の元日は上諏訪温泉で迎へた。山の雪に日が光つて、寒い風が肌に染み渡つた。半凍つた湖水には二三日前まで通つて居たといふ小蒸汽船が氷に閉ぢられて居た。
昨夜遅く此処に着いた。温泉の湯壺は階梯を下りて行つたところにあつた。昨夜も今朝も浴して居る客は一人もなかつた。私はつれて行つた取つて十歳になる男の児と戯れながら一緒に其処に長くつかつて居た。
『誰れも沸かす人がなくつて、独りでにこんなにお湯が出るの?』
男の児は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]るやうにして言つた。
綺麗な湯であつた。手も足も皆なすき透つて見えた。男の児は大きい湯壺をわが物にして泳いで廻つた。退屈した昨日の長い/\汽車、頭痛のする無数の隧道、それをも全く忘
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