。※[#始め二重括弧、1−2−54]うまくゐて呉れゝば好いがな? 此方《こつち》が来るのは知つてゐるのだから、すぐ電話をかける筈になつてゐるのだから、大抵その心構へをして待つてゐるだらうけれども、ゐれば好いがな……。何処かに出てゐはしないかな?※[#終わり二重括弧、1−2−55]かう思ふと、いくらか不安にはなつて来た。しかし、大連あてにかれによこしたかの女の手紙の文句がしつかりとかれの心に絡み着いてゐるので、別にそれほど強く感じもしなかつた。たとひ今はゐなくとも、今夜は逢へるといふ自信がかれの心の底にはつきりと棒のやうに横《よこたは》つてゐた。
 廊下のつき当つたところが、ボオイや女中のゐるところになつてゐた。そこに静かに灯《ひ》が漲つてゐるのをBは目にした。しかしハルピンは今頃は客がないと見えて、あたりはひつそりとしてゐた。大きなサボテンや葉蘭の鉢が硝子の中にくつきりと見えてゐた。
 さつきの女中がBの跫音をきいて、そこから顔を出した。
「――――?」
「電話は三階にもあるんだらうね?」
 Bは落着いた態度で訊いた。
「御座います――――」
「何処だね?」
 女中は蒼白い小さな顔をあ
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