さう深く知つてゐるわけでもないんですけども」
「何《なに》つていふんです?」
「名ですか? 徳子《とくこ》です」
「それでも、大連にも随分好い芸者がゐますか?」
「私なんかにはよくわかりませんけれど、随分好いのがゐるやうです?」
「あなた方の仲間にも随分遊ぶものがありますか?」
「駄目ですな。まだ巣立つたばかりですから……。もう少し経てば、さういふことも出来ますが、今では――」
「お子さんがあるんでせう?」
「え、二人あります――」
 BにはKの生活もはつきりとわかつて来たやうな気がした。大きい子の方を若い父親が抱いて寝る時代のことをBは繰返した。続いて三人目の女の児が出来た時分から、嵐のやうな愛慾の中に突進して行つたその生活を繰返した。Bは昨夜《ゆうべ》もある宴会から達《た》つて戻つて来ようとすると、「好いぢやありませんか。一体あなたはそんな方ぢやなかつた筈ですがな。何んなところへでも入つて行く方だとばかり思つてゐましたがな? 何うしたんです? 一体?」かうその人達が言ふので、戯談《じやうだん》のやうにしてそれを外《はづ》して、「だつて君、一刻も忘れずに待つてゐる人がゐるんだからね。
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