て行くのを見た。蒸暑くても窓を明けることは出来ず、その硝子窓の外に並べて置かれてある大きな鉢植ゑの万年青《おもと》の葉が埃塵で真白になつてゐるのを見た。
 何処でもBはひとりではなかつた。かの女は片時もBから離れてはゐなかつた。Bは到るところにかの女を置いた。それにしても此処にやつて来てこれを見たら何う思ふだらう? この蒙古風に逢つたら何と言つたらう? あの眉を蹙めるだらう。埃塵に白くなるあの髪を佗しがるだらう。肌の中までザラザラするのを気持わるがるだらう。しかしそれをも我慢するだらう。何故《なぜ》といふのに、それは旅だから。かの女もこの身も倶《とも》に好きな旅だから――。
 天津で友達に招かれた料理屋は大きな室《へや》の中に小さな室が幾つも幾つもあるやうな家《うち》であつた。そこでBはBの前に坐つた年増の妓《こ》に、「矢張、女だつて同じことですよ。一つづゝ心をつかんでゐなければ安心して生きてゐられないのですよ。だから矢張|終《つひ》にはそこに落ちて行くのですな――」などと言つた。
 あくる日もそのすさまじい蒙古風は止まなかつた。Bは少しばかりあつた用事をすまして、午後の三時の汽車で北
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