としたり、あいつ等の中に入つて行かうとすると、えらい目に逢ふぞよ。あいつ等の仲間は昔から堅い約束があつて、少しでも仲間のことを世間に洩らした奴は、成敗されて了ふといふことだし、里の人でも、あいつ等のことを餘りよく知つてゐると、何んな目に逢ふかわからんぞ。そつとしておけよ。それに限るぞ。』

         二

 平公と嚊とはある谷間で十日ほど過した。それは丁度夏も終りになつて、蟲の聲などの靜かに聞える頃であつた。毎日續いて雨が降つて薄い小さいテントからは雨滴が佗しく落ちた。二月三月精出して働いて、里に木地やさゝらを賣つて來たので、金も米も不自由しないほどかれ等は貯へて持つてゐた。平公は狹いテントの隅に形ばかりの仕事場を拵へて、終日長く木を切つたり削つたりしてゐた。木の葉や木の枝を澤山に取つて來てテントの上に置いても、それでも雨はぽた/\と洩れた。平公の頭の髪は半ば濡れてゐた。
『しけて、しやうがねえな。』
『ほんまに……もう止まずかと思ふが。』かう言つた若い嚊の髪の毛も矢張り雨滴で濡れて光つてゐた。平公は去年までは獨身であつた。毎年獨りか、でなければ、仲間の一人二人と山から山へと仕
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