車上の芳子、高い二百三高地巻、白いリボン、やや猫背勝なる姿、こういう形をして、こういう事情の下に、荷物と共に父に伴《つ》れられて帰国する女学生はさぞ多いことであろう。芳子、あの意志の強い芳子でさえこうした運命を得た。教育家の喧《やかま》しく女子問題を言うのも無理はない。時雄は父親の苦痛と芳子の涙とその身の荒涼たる生活とを思った。路行く人の中にはこの荷物を満載して、父親と中年の男子に保護されて行く花の如き女学生を意味ありげに見送るものもあった。
京橋の旅館に着いて、荷物を纒《まと》め、会計を済ました。この家は三年前、芳子が始めて父に伴れられて出京した時泊った旅館で、時雄は此処に二人を訪問したことがあった。三人はその時と今とを胸に比較して感慨多端であったが、しかも互に避けて面《おもて》にあらわさなかった。五時には新橋の停車場に行って、二等待合室に入った。
混雑また混雑、群衆また群衆、行く人送る人の心は皆|空《そら》になって、天井に響く物音が更に旅客の胸に反響した。悲哀《かなしみ》と喜悦《よろこび》と好奇心とが停車場の到る処に巴渦《うず》を巻いていた。一刻毎に集り来る人の群、殊に六時の神
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