、血統を調べなければなりません。それに人物が第一です。貴方の御覧になるところでは、秀才だとか仰《おっ》しゃってですが……」
「いや、そう言うわけでも無かったです」
「一体、人物はどういう……」
「それは却《かえ》って母さんなどが御存じだと言うことですが」
「何アに、須磨《すま》の日曜学校で一二度会ったことがある位、妻もよく知らんそうですけえ。何でも神戸では多少秀才とか何とか言われた男で、芳は女学院に居る頃から知っておるのでしょうがナ。説教や祈祷《きとう》などを遣《や》らせると、大人も及ばぬような巧いことを遣りおったそうですけえ」
「それで話が演説調になるのだ、形式的になるのだ、あの厭な上目を使うのは、祈祷をする時の表情だ」と時雄は心の中に合点《がてん》した。あの厭な表情で若い女を迷わせるのだなと続いて思って厭な気がした。
「それにしても、結局はどうしましょう? 芳子さんを伴《つ》れてお帰りになりますか」
「されば……なるたけは連れて帰りたくないと思いますがナ。村に娘を伴れて突然帰ると、どうも際立《きわだ》って面白くありません。私も妻も種々村の慈善事業や名誉職などを遣っておりますけえ、今
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