は致しますまい。私は人物を見たわけでありませんけえ、よく知りませんけどナ、女学生の上京の途次を要して途中に泊らせたり、年来の恩ある神戸教会の恩人を一朝にして捨て去ったりするような男ですけえ、とても話にはならぬと思いますじゃ。この間、芳から母へよこした手紙に、その男が苦しんでおるじゃで、どうか御察し下すって、私の学費を少くしても好いから、早稲田《わせだ》に通う位の金を出してくれと書いてありましたげな、何かそういう計画で芳がだまされておるんではないですかな」
「そんなことは無いでしょうと思うですが……」
「どうも怪しいことがあるです。芳子と約束が出来て、すぐ宗教が厭《いや》になって文学が好きになったと言うのも可笑《おか》しし、その後をすぐ追って出て来て、貴方などの御説諭も聞かずに、衣食に苦しんでまでもこの東京に居るなども意味がありそうですわい」
「それは恋の惑溺であるかも知れませんから善意に解釈することも出来ますが」
「それにしても許可するのせぬのとは問題になりませんけえ、結婚の約束は大きなことでして……。それにはその者の身分も調べて、此方《こっち》の身分との釣合も考えなければなりませんし
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