ません。監督上、御心配なさるのも御尤《ごもっと》もです。けれど折角先生があのように私等の為めに国の父母をお説き下すったにも係《かかわ》らず、父母は唯無意味に怒ってばかりいて、取合ってくれませんのは、余りと申せば無慈悲です、勘当《かんどう》されても為方《しかた》が御座いません。堕落々々と申して、殆《ほとん》ど歯《よわい》せぬばかりに申しておりますが、私達の恋はそんなに不真面目《ふまじめ》なもので御座いましょうか。それに、家の門地々々と申しますが、私は恋を父母の都合によって致すような旧式の女でないことは先生もお許し下さるでしょう。
先生、
私は決心致しました。昨日上野図書館で女の見習生が入用だという広告がありましたから、応じてみようと思います。二人して一生懸命に働きましたら、まさかに餓《う》えるようなことも御座いますまい。先生のお家にこうして居ますればこそ、先生にも奥様にも御心配を懸けて済まぬので御座います。どうか先生、私の決心をお許し下さい。
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[#地から2字上げ]芳子
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先生 おんもとへ
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恋の力は遂に二人を深い惑
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