の菜が気に入らぬと云って、御膳《おぜん》を蹴飛《けとば》した。夜は十二時過に酔って帰って来ることもあった。芳子はこの乱暴な不調子な時雄の行為に尠《すく》なからず心を痛めて、「私がいろいろ御心配を懸けるもんですからね、私が悪いんですよ」と詫《わ》びるように細君に言った。芳子はなるたけ手紙の往復を人に見せぬようにし、訪問も三度に一度は学校を休んでこっそり行くようにした。時雄はそれに気が附いて一層懊悩の度を増した。
野は秋も暮れて木枯《こがらし》の風が立った。裏の森の銀杏樹《いちょう》も黄葉《もみじ》して夕の空を美しく彩《いろど》った。垣根道には反《そり》かえった落葉ががさがさと転《ころ》がって行く。鵙《もず》の鳴音《なきごえ》がけたたましく聞える。若い二人の恋が愈※[#二の字点、1−2−22]《いよいよ》人目に余るようになったのはこの頃であった。時雄は監督上見るに見かねて、芳子を説勧《ときすす》めて、この一伍一什《いちぶしじゅう》を故郷の父母に報ぜしめた。そして時雄もこの恋に関しての長い手紙を芳子の父に寄せた。この場合にも時雄は芳子の感謝の情を十分に贏《か》ち得るように勉《つと》めた。時
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