白縞《しろしま》の袴《はかま》を穿《は》いた書生さんが居るじゃありませんか。また、原稿でも持って来た書生さんかと思ったら、横山さんは此方《こちら》においでですかと言うじゃありませんか。はて、不思議だと思ったけれど、名を聞きますと、田中……。はア、それでその人だナと思ったんですよ。厭な人ねえ、あんな人を、あんな書生さんを恋人にしないたッて、いくらも好いのがあるでしょうに。芳子さんは余程物好きね。あれじゃとても望みはありませんよ」
「それでどうした?」
「芳子さんは嬉《うれ》しいんでしょうけど、何だか極《きま》りが悪そうでしたよ。私がお茶を持って行って上げると、芳子さんは机の前に坐っている。その前にその人が居て、今まで何か話していたのを急に止して黙ってしまった。私は変だからすぐ下りて来たですがね、……何だか変ね、……今の若い人はよくああいうことが出来てね、私のその頃には男に見られるのすら恥かしくって恥かしくって為方《しかた》がなかったものですのに……」
「時代が違うからナ」
「いくら時代が違っても、余り新派過ぎると思いましたよ。堕落書生と同じですからね。それゃうわべが似ているだけで、心はそ
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