愛、肉の恋愛、恋愛と人生との関係、教育ある新しい女の当《まさ》に守るべきことなどに就いて、切実にかつ真摯《しんし》に教訓した。古人が女子の節操を誡《いまし》めたのは社会道徳の制裁よりは、寧《むし》ろ女子の独立を保護する為であるということ、一度肉を男子に許せば女子の自由が全く破れるということ、西洋の女子はよくこの間の消息を解しているから、男女交際をして不都合がないということ、日本の新しい婦人も是非ともそうならなければならぬということなど主《おも》なる教訓の題目であったが、殊に新派の女子ということに就いて痛切に語った。
芳子は低頭《うつむ》いてきいていた。
時雄は興に乗じて、
「そして一体、どうして生活しようというのです?」
「少しは準備もして来たんでしょう、一月位は好いでしょうけれど……」
「何か旨《うま》い口でもあると好いけれど」と時雄は言った。
「実は先生に御縋《おすが》り申して、誰も知ってるものがないのに出て参りましたのですから、大層失望しましたのですけれど」
「だッて余り突飛だ。一昨日逢ってもそう思ったが、どうもあれでも困るね」
と時雄は笑った。
「どうか又御心配下さるよう
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