挫けた。「独立独行――何でも自分で生きて行くに限る。小学校でつかって呉れなければ、自分で働いて食うばかりだ。Socialist ! 結構な名をつけられたものだ。自分は Socialist だろうか。それは思想にはいくらかそういう傾向を持って居るかも知れない。国の新聞に出したあの歌などにはそういう事を主として歌った、それは事実だ。しかし、事実を歌ったばかりで、Socialist と断定する役人達の無学がわかる。
「自分は芸術家だ。Socialist ではないっていくら弁解してもわからなかった。」こんなことを思った勇吉の頭にはあの多くの人達が死刑に処せられた時の光景が歴々と浮んで来た。かれはそれを思い出す毎に、いつも体がわくわくと戦えた。それは日本などには到底起ることがないと信じていた光景であった。外国――殊にロシヤあたりでなければ見ることが出来ないと思っていた凄惨な光景であった。その時新聞を持っていたかれの手はぶるぶる戦えた。其処には、かれの知っている友達の名前が書いてあった。その友達はかれが東京に出ている頃懇意にした男で、よく往来しては、烈しい思想を互に交換したりした。しかし、勇吉は其
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