の態度の変って行ったのも勇吉には成功の第一のように見えた。
 博士の邸を本郷の高台に訪ねて行った時には、怪しい姿を玄関にいる大きな犬に噛みつくように吠えられて、かれは狼狽した。幸いに博士は在宅で、立派な庭に面した大きな室で逢って呉れた。「それは好いですな、登録すれば一層好いんだけれども、まあ、誰も始めは真似るものもあるまい。少し売出してからにする方が好い。」などと言ってて、版権登録の手続などを教えて呉れた。勇吉は土産に持って行ったものを出すのが恥かしいような気がした。
 帰る時に、漸く思切って、「これはあっちで取れたので御座いますが、私がつくったんだと猶好いんですけれども……そうじゃ御座いませんけれども、折角持って参ったんですから。」
 こう言って、木綿の汚れた風呂敷から新聞紙に包んだ一升足らずの白隠元豆を其処に出した。
「イヤ、これは有難う。好い豆が出来るな、矢張り、彼方では。」
 博士は莞爾しながら言った。
 勇吉は唯まごまごして暮した。印刷が出来上らない中は販路の方に取りかかることも出来ないので、仕方なしに職業の方を彼方此方で訊いて見たりなどした。路の通りにある職業周旋のビラの沢
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