!」勇吉は妻にすぐ言って聞かせようとは思ったけれど、まアあとで、すっかり決ってからでも好いと思いかえして、その愉快な計画を自分一人の腹の中に納めて置いた。勇吉はボールの厚板を押入の中から捜して、不完全な原稿の訂正に其日を費した。丸く切ったボール紙をぐるぐる廻して、別の紙の数字と合せるように勇吉は骨折ってこしらえた。すべてがかれの思うように行った。かれは使用法を箇条書きにして書いて見たりした。
「旨い、旨い。これで出来た。」
 かれは喜ばしそうな顔をして言った。
「何ツていう名をつけようか。」続いてかれはこう思った。万代暦、何うも固すぎると思った。新式万世暦、年代暦、こうも考えた。しかし何れもこれも皆な気に入らなかった。もう少し砕けて出て、ちょうほう暦、百年こよみなどという名をつけてみた。何うも矢張自分の思ったような好い名がなかった。
 勇吉はその名の為めに尠くとも三日、四日考えた。ふとトコヨという字が頭に浮んで来た。トコヨゴヨミ――好い、好い、これが好いこれが好いと思って、嬉しそうに膳を叩いた。山田式トコヨゴヨミ――二、三度口でよんで見て、「矢張、式なんて言う字がない方が好い。ヤマダト
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