ら遙々とこの荒蕪地へやって来ている人達を見た。中には一村を挙げて同じ調子の国訛の言葉をつかっているようなところもあった。人々は皆な精を出して働いていた。「これでも一生の中には、国に帰るつもりですよ。」などと人々は皆な言った。「寒いし、それに、こういう処で一生暮す気にはなれないね。まア、金をためて国に帰って好い田地でも買って、年を取ってから、楽をするんだねえ。」などという人もあった。かと思うと、荒蕪地をある程度まで耕して、それを後から来た者に売って、もっと交通の便な、開けた町に近いところへ出て行こうとしている人などもあった。森だの藪地だのからは、大きな伐木を焼く煙が高く高く挙っているのを勇吉は見た。
 雑嚢に一杯薬を入れると、二貫目位の重量があった。それが段々一日増しに軽くなって行った。勇吉はそれを楽みにして歩いた。
 兎に角それだけ売り上げれば、かれはいつも家の方へ引返して来ることにきめていた。しかしそれが十里行って売切れるか、二十里行って売り切れるかわからなかった。一度は三十里近くも行って、それでも売り切れずに山を越して海岸に出て、そして漸く帰って来たことなどもあった。旅舎のない村で
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