会《でつくは》したから、お辞儀をしたが、黙つて莞爾《にこ/\》と笑はしやつた。えらく痩《や》せなすつたな。」
それでゐて、葬式が行くと、どんな貧乏なものでも、乃至《ないし》は富豪でも、同じやうな古い僧衣《ころも》を着て、袈裟《けさ》をかけて、そして長い長い経を誦《ず》した。そしてその声も始めに比べて、次第にその声量を増し、威厳を増し、熱意を増して来るのを誰も認めた。淋しい大破した本堂の中に漲《みなぎ》り渡る寂滅《じやくめつ》の気分は、女や子供、乃至《ないし》は真面目に考へる人達の心を動かさずには置かなかつた。他の寺の僧達の誦《ず》した読経《どきやう》ではとても味ふことの出来ない微妙《みめう》な深遠な感じに人々は撲《う》たれた。
さま/″\の評判の中《うち》に、秋は去り、冬は来た。木の葉は疎々《そゝ》として落ち、打渡した稲は黄《きいろ》く熟した。ある朝は霜《しも》は白く本堂の瓦の上に置いた。村の人達は段々|朝毎《あさごと》の寺の読経の声に眠《ねむり》をさまされるやうになつた。
十一
「浄乞食《じやうこつじき》――浄乞食。」
口の中にかう言つて、かれは僧衣《ころも》の上
前へ
次へ
全80ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田山 花袋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング