この家を訪問してから、『田舎教師』における私の計画は、やや秩序正しい形を取って来た。日記に書いてあることがすべてはっきりと私の眼に映って見えた。で、さらに行田から弥勒に行く道、かれの毎日通った路を歩いてみることにした。
 私はいろいろに考えた。寺に寄宿した時代のかれは、かなりにくわしくわかったが、その交遊の間のことがどうものみ込めない。中学校時代の日記は、空想たくさんで、どれが本当かうそ[#「うそ」に傍点]かわからない。戯談《じょうだん》に書いたり、のんきに戯《たわむ》れたりしていることばかりである。三十四五年――七八年代の青年を描こうと心がけた私は、かなりに種々なことを調べなければならなかった。そのころの青年でも、もう私の青年時代とは、よほど異った特色やらタイプやらを持っていたから……。『明星』にあこがれた青年、なかばロマンチックで、ファンタスチックで、そしてまだ新しい思潮には到達しない青年の群れ――その群れを描くことについては、私にとって非常な困難があった。中学時代のかれの初恋、つづいて起こった恋愛事件、それがのみ込めないので、長い間筆がとれなかった。
 二年、三年は経過した
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