が照り、秋草が咲き、里川が静かに流れ、角のうどん屋では、かみさんがせっせとうどんを伸していた。
私は最初に、かれのつとめていた学校をたずねた。かれの宿直をした室、いっしょに教鞭《きょうべん》を取った人たち、校長、それからオルガンの前にもつれて行ってもらった。放課後で、校庭は静かに、やはり同じようにして、教師や生徒がボールなどをなげていた。
弥勒の村は、今では変わってにぎやかになったけれども、その時分はさびしいさびしい村だッた、その湯屋の煙突からは、静かに白い煙が立ち、用水|縁《べり》の小川屋の前の畠では、百姓の塵埃《じんあい》を燃している煙が斜めになびいていた。
私とO君とは、その小川屋で、さい[#「さい」に傍点]の煮つけで酒を飲んだ。
学校の校長が、私が話を聞きに行ったのを探偵にでも来たのかと思って、非常に恐れていたのも滑稽《こっけい》であった。
それから私は一度小林君の親たちの住んでいる家を訪ねた。やはり、小林君のことを小説にするとは言えないので、書画の話を聞くふりして出かけた。私はやさしい母親とのんきな父親とを見た。その家はじつに小林君の死の床の横たわったところであった。
この家を訪問してから、『田舎教師』における私の計画は、やや秩序正しい形を取って来た。日記に書いてあることがすべてはっきりと私の眼に映って見えた。で、さらに行田から弥勒に行く道、かれの毎日通った路を歩いてみることにした。
私はいろいろに考えた。寺に寄宿した時代のかれは、かなりにくわしくわかったが、その交遊の間のことがどうものみ込めない。中学校時代の日記は、空想たくさんで、どれが本当かうそ[#「うそ」に傍点]かわからない。戯談《じょうだん》に書いたり、のんきに戯《たわむ》れたりしていることばかりである。三十四五年――七八年代の青年を描こうと心がけた私は、かなりに種々なことを調べなければならなかった。そのころの青年でも、もう私の青年時代とは、よほど異った特色やらタイプやらを持っていたから……。『明星』にあこがれた青年、なかばロマンチックで、ファンタスチックで、そしてまだ新しい思潮には到達しない青年の群れ――その群れを描くことについては、私にとって非常な困難があった。中学時代のかれの初恋、つづいて起こった恋愛事件、それがのみ込めないので、長い間筆がとれなかった。
二年、三年は経過した
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