した。「どうも、これはお世話をかけました」と言って留吉がその帽子を受取ろうとしますと、その手をぐっとその男は掴《つか》んで「ちょっと来い」と言ってペンキ塗《ぬり》の白い家へ連れてゆきました。椅子《いす》に腰かけた人間の眼が十三ほど、一度にぎろっと留吉の方を見ました。それは巡査でした。
「先程電話でお話のあったのはそいつですね」一人の巡査が立ってきて、法被の男に言いました。
「こいつですよ、旦那《だんな》」法被の男が言いました。
「私はその、なんにも悪いことをしたのではないですよ。その、私は、その、昔の友達を訪ねていったですよ。ただその、眼《め》が、眼がそのヂリヂリヂリっと言ったでがすよ」留吉《とめきち》は巡査に言いました。巡査は髭《ひげ》を引張《ひっぱ》って言いました。
「お前は今田《いまだ》氏の昔の友達だと言うのだね。それに違いないか、何という名だ」。
巡査は今田氏へ電話をかけました。
「ははあなるほど、昔の友達だなどと当人は申して居《お》りますが……ははあ、いやわかりました。では、とりあえずですな、外《ほか》に窃盗などの目的はなかったものと推定して、放免することにいたしましょう。
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