《ゆうべ》ギンザ・シネマへいったので今日寝坊してしまったのです。大急ぎで学校へくる道で、学校の方から帰ってくるBに逢《あ》いました。
「閉め出しだ」Bが言いました。
「君もおくれたの?」Aは、おなじ境遇におかれる友達が一人出来たのに力を得ながら言いました。
「家《うち》へ帰る?」
「家へなんか帰ったら余計にわるいよ。散歩しようじゃあないか、どこか」
「ああ」気の弱いAも、そうするより外ないと思って、Bのようにすることに決めました。
「ニコライへいって見ないか?」
「ああ」
 そこで二人の小さな中学生は、大学の学生が大威張りで銀座を散歩するようなつもりで、もしその勇気があったら巻煙草《まきたばこ》をくわえて肩をあげて、ついついという足どりで、歩いて見たいのでした。
「なあんだ、ニコライ堂は帽子を脱いでしまったじゃないか」
 塔を見あげながら生意気らしくズボンのポケットに手を入れて、Bが言いました。
「ほんとだ、地震に降参しちゃったんだね」
 Aはまだどうも学校へ講義をききに這入《はい》れなかったことが気になって、すっかり、散歩する気持になれないでいるのでした。
 学校では、地理の教師のカ
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