大きな蝙蝠傘
竹久夢二

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)幹子《みきこ》は
−−

 それはたいそう大きな蝙蝠傘でした。
 幹子《みきこ》は、この頃《ごろ》田舎《いなか》の方から新しくこちらの学校へ入ってきた新入生でした。髪の形も着物も、東京の少女に較《くら》べると、かなり田舎染みて見えました。けれど、幹子はそんな事を少しも気にかけないで、学科の勉強とか運動とか、つまり、少女のすべきことだけをやってのけると言った質《たち》の少女でした。たとえば青い空に葉をさしのべ、太陽の方へ向いてぐんぐん育ってゆく若木のようにのんびりした少女でした。
 それにしても、幹子が毎日学校へ持ってくる蝙蝠傘は非常に大きなもので、忽《たちま》ち学校中の評判になりました。
 どこの級にも、頓智《とんち》があってたいへん口が軽く、気の利いたことを言っては皆を笑わせることの好きな愚《おろか》な生徒が一人や二人はあるものです。幹子の級にも、時子《ときこ》と朝子《あさこ》という口のわるい生徒がありました。
 ある日、幹子《みきこ》は学校へゆく途中で、この口のわるい連中に出会いました。むろんこ
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング