の時、幹子は例の蝙蝠傘《こうもりがさ》を持っていたので、忽《たちま》ちそれが冷笑の的になりました。
「あら何処《どこ》の紳士かと思ったら、幹子さんだったわ、幹子さんお早う」
時子《ときこ》が言った。なるほど幹子の蝙蝠傘は、黒い毛繻子張《けじゅすばり》で柄の太い大きなものだから、どう見ても、祖父様《おじいさん》の古いのをさしたとしか見えませんでした。事実またそうであったかもしれません。この場合「何処の紳士かと思ったら」というのは、ほんとに適評だったので、皆はどっと笑いくずれました。
幹子も一緒になって笑いながら「お早う」と挨拶《あいさつ》して、つまらないお友達にかまってはいられないと言ったように、さっさとそこを通りぬけて、まっすぐに学校の方へ歩いた。
「あのくらい蝙蝠傘が大きかったら日にやけないで好《い》いわね」
「ええ、だから幹子さんは、お色が白いわよ」
そう言って冷笑しているのも幹子の耳へ這入《はい》った。けれど幹子は何を言われても平気でいた。
「でも幹子さんの田舎《いなか》じゃあれでたいへんハイカラなのかも知れないわ」
「そうね。私はこう思うの、幹子さんのお父様はきっと薬屋さ
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