んに違いないわ。だから幹子さんをいまに薬売《くすりうり》にするんだわ。ほら、よく薬売があんな大きな蝙蝠傘をさして来るでしょう。「本家、讃岐《さぬき》は高松《たかまつ》千金丹《せんきんたん》……つて歌って来るじゃないの」そう言って時子は、面白く節をつけて歌って見せた。
「そうよ、そうよ」
「きっとそうだわ」
と口口に言うのでした。
この時、幹子は静かに気にもかけないような風で振返りながら、
「私が薬屋になったら、好《よ》い薬を売ってあげますから、安心していらっしゃいな」
幹子は、笑いながらそう言って、すたすたと行ってしまった。
そう言われると、口のわるい連中も、さすがに何も言えないで黙っていた。
それから四五日してから学校の授業中、俄《にわか》に雨が降りだして、授業の終る頃《ころ》には流れるように降ってきた。
今こそ、この冷笑の種になった大きな蝙蝠傘が役にたつ時が来た。
幹子は、時子や朝子《あさこ》が、小さな美しい蝙蝠傘を持てあましているのを見かねて、
「皆様この中へ這入っていらっしゃいな、大きいからみんな這入れてよ」
三人は仲よく、大きなハイカラな蝙蝠傘のお蔭《かげ》で、
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