大きな手
竹久夢二
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)綺麗《きれい》な
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ある郊外、少女Aと少女Bの対話
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
A まあ、あなたの手は綺麗《きれい》なお手ねえ。白くって、細くって、そしてまあこの柔かいこと。マリア様のお手のようだわ。
B そうでしょうか?
A あら、あなたはそうは思わなくって? これが美しくなかったら何を美しいって言えば好《い》いでしょう。
B そりゃあたしの手は、小さくても色が白いには白いけれど、あたしよかもっと美しい手があると思ってよ。
A と仰言《おっしゃ》ると、どんな手ですの?
B どんな手ってきかれても困るけれど、あのクラスのCさんの手なんかは、ほんとに美しい手だと思うわ。
A まあ! Bさん。あなたあんな手が何処《どこ》が美しいの? 指は棒のように太いし、色は石炭のように黒いし、あの方が体操でもしていらっしゃるところを見ていると、まるで煙筒《えんとつ》の掃除男が喧嘩《けんか》しているようだわよ。
B そりゃ、あなたが仰言《おっしゃ》るようにCさんの手は太くって黒いし、それに足だって随分大きいけれど、Cさんの手や足がどんなに役に立っているかあなた御存じ?
A いいえ、だけど、Cさんが何をなさったからって手足の大きいことに違いはないわ。
B そりゃそうですけれど、あなたや私たちの手の美しさと、Cさんの手の美しさとは意味が違うって言うことを、あなたにお聞かせしたいの。
A どう言う訳なの。
B Cさんの手は私達の手と違って、そりゃあお忙しいのよ。ほら、Cさんのお母様《かあさん》は御病気でいつも床に就いていらっしゃるのでしょう。だからCさんがお父様《とうさん》の身のまわりの事から、お台所の事から、それに小さな弟さんの面倒まで、そりゃ行届いてなさるんですって。
A まあねえ、
B それだのに、一日だって学校はお休みにならないし、遅刻一つなすった事はないでしょう。
A ええ そうよ
B 何時《いつ》だったか、お琴のお稽古《けいこ》の帰りに、なんでも大変寒い日の午後だったわ。Cさんのお家《うち》の前を通ったら、Cさんの裏の井戸端で、雨が降ってるのに手拭《てぬぐい》を被《
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