かぶ》って、手を真赤《まっか》にしてお米を磨《と》いでいらしたの、あたしほんとにお気の毒になっちゃって、知らぬ風をして行過ぎようと思ったら、Cさんの方から気がついて「あら、Bさん何処へいらしたの」って笑いながらおききになるんでしょう。あたしほんとに涙が出たわ。
A そう言えばあたし、あの方がいつか人形を作って、白耳義《ベルギー》の少女達へお贈りになった話を聞いたわ。
B それもCさんが、ああしたお忙しい時間の中からお作りになったんだわ。
A そうねえ。
B それにまだCさんの事では、感心なお話があるの。あの方はねえ、毎朝牛乳配達をしていらっしゃるのよ。
A まあ。
B そりゃこう言う訳なの。去年の十一月の学期試験の時の事なの。Cさんはいつものように御飯のお仕度をしまって置いて、お母様《かあさん》のお薬を買いに町へいらしたの。その帰りに、Cさんの事だから歴史のおさらえをしながら歩いていらしたんでしょう。Cさんは歴史の方へ夢中だもんだから、向うから来る人にぶつかってしまったんですって。あっと思って気がつくと、それがまあ年寄ったお爺《じい》さんで牛乳を配達して歩いていたんですって。
A おやおや。それじゃ牛乳の壜《びん》はすっかり破《こわ》れたでしょう。
B えええ、杖《つえ》をついてやっと歩く位の年寄だから牛乳壜はもとより、お爺さんはそこへ転んだのですって。Cさんはびっくりして抱起しながら、
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「お爺さん怪我《けが》はなさらなかって? まあ御免なさいな」
「なんの、お嬢様。すこしも怪我はござりません。こう年をとりましてはねっから身体《からだ》が不自由であなた」ってそのお爺さんが言うんですって。Cさんは、そのお爺さんを、そのお爺さんの家《うち》まで送って、自分でその日の牛乳を配達したんですって。それからずっと今日まで、毎日学校へ来る途次《みちみち》、お爺さんの配達のお手伝《てつだい》をなさるんですって。
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A まあねえ。それであんなに足が大きくなったんだわねえ。
B あたしはこう思うの。Cさんはそんな大きな足や手を持っていらっしゃるからこそ、忙しい仕事も出来るし、あんな立派な事が出来たのだと思うわ。
A 全くそうねえ。
B 私達の小さい手でも、私達の手に出来ることは何《な》んでもし
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