事かと思いつつ包をとくと中からいつぞやのノートが一冊出てきた。葉子は恐る恐るノートをあけた。すると、森先生の手蹟《しゅせき》でつぎの事が書かれてあった。
葉子さん。
あなたの愛らしいノートをお返しする時がきました。
絵を画くことは少しも悪くなかったのです。ただ、画く時でない時に画いた事だけがいけなかったのです。あなたが私のために花を摘んで下さったことも、橋の上から川へ流したことも、みんな私は知っています。あなたの心づくしの花束は、私の病室の窓の下を流れる水におくられて、私の手に入りました。私はどんなにあなたのやさしい親切を感謝したことでしょう。
安心して下さい。私の病気はほんの風邪に過ぎません。次の月曜日からまた教場でお目にかかりましょう。
葉子《ようこ》さん。
どうぞこれからはもっと善い子になって下さい。他《ほか》の稽古《けいこ》の時に絵を画《か》いたりしないような、そしてお友達に何を言われても、好《よ》いと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。
[#地から7字上げ]それでは
[#地から3字上げ]さようなら
底本:「童話集 春」小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日初版第1刷発行
底本の親本:「童話 春」研究社
1926(大正15)年
入力:田中敬三
校正:noriko saito
2005年9月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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