んちは、ごきげんはいかがですか」
山彦「こんちは、ごきげんはいかがですか」
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少年少女顔を見合せて笑う。
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少年少女「あなたは好《い》い方ですね」
山彦「あなたは好い方ですね」
先生「どうだね、山彦は正直だろう。どれ私は行こう、仲よく遊んでおいで」
少年「先生、さよなら」
少年少女「さようなら」
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先生下手へ去る。
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    第二景

 舞台は前景のまま、少年は木の枝など振りて歩きまわる。
少女摘草などする。
 この時舞台裏から左《さ》の歌が聞える。
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ころ ころ 小山の 小兎《こうさぎ》は
なぜに ころ ころ お泣きだえ
お母さんがないか
実がないか
お母さんは そばに いなさるし
木の実は お山に あるけれど
九十九人の猟人《かりうど》が
九十九谷をとりまいて
母子《おやこ》もろとも打つわいな。
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少年「山彦《やまびこ》がまた歌い出したよ」
少女「そうね」(耳をすます)
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歌が終ると、下手から一匹の兎が呼吸《いき》をきらしながら走って出る。
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兎「助けて下さい。怖い猟人がわたしを撃ちにくるんです」
少年「その猟人はどこにいるの」
兎「あれあの坂をいま上ってます。もうじきここへ来るでしょう。どうぞわたしを助けて下さい。」
少女「まあ、可哀《かあい》そうね。兄さんどうしたら好《い》いでしょう」
少年「よし、きっとぼくが助けてあげるよ」
兎「ほんとに、坊ちゃんありがとう」
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猟人撃方の構えに銃を持って、下手より急ぎ登場。
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少女「あら兄さん」
少年「あ、来たな」鋭く少女に「はやく、かくして、かくして」
猟人「坊ちゃん、兎《うさぎ》を知りませんか」
少年「なんですか」
猟人「兎を知りませんか」
少年「知っていますよ、おじさん」
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この対話の間に、少女は兎をほどよき叢《くさむら》にかくす。
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猟人「たしかこの辺へ逃込んだがなあ」(独語《ひとりごと》をしながら四辺《あたり》を見廻《みまわ》す)
少年(猟人《かりうど》の注意を自分の方へ向けるようにあせりながら)「おじさん兎の毛は白いんでしょう」
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猟人「ああ、その白兎、白兎」
少年「耳が長いでしょう、おじさん」
猟人「そうそう耳が長いね」
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猟人、銃を杖《つえ》にして話し出す。
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少年「ね、おじさん、兎の尻尾《しっぽ》は短いでしょう」
猟人「短いとも、これんばかりさ」
少年「それから、前脚が短くて、後脚が長いでしょう」
猟人「短くって、長くって」猟人は、自分が何をしているかを思出《おもいだ》して、「坊ちゃん、ぼくはその兎を探しているのだよ」
少年「おじさん、その兎はやっぱり赤い眼《め》を持っているでしょう」
猟人「ぼくは、坊ちゃんの博物の復習《おさらい》をしているんじゃないよ。一体その兎は……」
少年「白兎ですね。おじさん」
猟人「白兎ですよ。何遍それを言えば好《い》いんだ。そんなこと言っているうちに、気の利いた兎は、穴の中へもぐって昼寝をするだろう」独語のように「この子は、よっぽど呑込《のみこみ》のわるい子だな」
少年「なあんだ、おじさんは、その白兎《しろうさぎ》を撃ちにきたの」
猟人「そうさ」
少年「だっておじさんは、いきなり兎を知らないかって言うんだもの、だからぼく、学校の復習《おさらい》をしちゃったのさ」
猟人「眼《め》をぱちくりやっている」
少年「ああ、その兎なの」
猟人「そうさ」
少年「その兎なら、もうよっぽど遠くへ逃げました。あの道の先の、ほら左側に赤松があるでしょう」
猟人「あるある」
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少女は猟人《かりうど》の方を見て笑っている。兎も出て来て見ている。
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少年「あすこを左へ曲って、桜の木が見えるでしょう」
猟人「ああ、見えるね」
少年「あの木から、一本、二本、三本、四本、五本、六本、十三本目の桜の下へかくれましたよ」
猟人「いや、どうもありがとう」
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猟人はあたふたと、上手へ走ってゆく。
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