て、それを見て居ると、小鳥や、星や、三月|弥生《やよい》のことなどが思い出されるのであった。
 もしお祖母《ばあ》様ののであった鼠色《ねずみいろ》のキレに眼《め》を移すならば、緑色だった空は忽《たちま》ち暗くなって雨が降って来る。
 けれどもお春さんののであった桃色のキレや、父様のだった藍色ののや黄色のを見さえすれば、すぐに花が咲いた、お日様がまた輝くのでした。
 やがていろんな色がごっちゃになって、こんがらがってしまう、蒲公英《たんぽぽ》がちゃらちゃらと鳴ったり、橇の鈴や菫《すみれ》が雪のなかで花を開いたり。そしてあなたは眠ります。その眠りが小さな子供を健康にするのでした。

   2

 春が来た。
 桜の枝には蜂《はち》と風とが音《ね》を立てて居る。庭にはあなたと母様と二人きり白い花弁が雪のように音もなく散りかかる。
 小鳥は朝の輝きのうちに囀《さえず》っていた。
 あなたは躍り、笑い、且《かつ》歌った。
 あなたの大きくみひらいた眼には、果てなき大空の藍色と見渡す草原の緑とが映り紅を潮《さ》した頬《ほお》には日の光と微風《そよかぜ》とが知られた。
「母様見て御覧なさい、坊やが飛
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