は口を入れた。
「空のように青い、そう昔はね、この世界に菫が一つも無かったの」
「それからお星様もねえ、母様」
「ええ菫もお星様もこの世界になかったの。そこでねえ坊や、青い空をすこしばかり分けて貰《もら》ってそれを世界中に輝《かがやか》したものがあるの。それが菫の一番はじまりなんだよ」
「それからお星様は?」
「坊やは知ってるじゃありませんか。お星様はね、青い空の小さな穴ですよ。そこから天の光が輝く小さな穴ですよ」
「ほんとう、母様」とあなたは言って母様を見あげる。
 母様の眼《め》は菫のように青く、星の様に輝いて居た。天《そら》の光が輝いて居ったから。
 母様は世界中で一番不思議な人であった。
 母様は嘗《かつ》て悪い事をしたことがなかった。そしていろんな事を知って居た。夜も昼も子供のことを見ておいでなさる神様をも知って居た。また神様はあなたの髪の毛の数さえも知っておいでなさるのみならず、子鳥が死ぬのをも一羽だっても、神様の知って居なさらぬことはないと母様は話してきかせなされた。
「そんならねえ母様、神様は、あの駒鳥《こまどり》の死んだ時をも知っているの?」
「知ってなさるとも」

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