話《はな》してきかせました。すると、祖母《ばヾ》は眼《め》をみはつて、そのかたは父《ちヽ》の最初《まへ》の「つれあひ」だつたと驚《おどろ》かれました。
この日《ひ》から、少年《せいねん》のちいさい胸《むね》には大《おほ》きな黒《くろ》い塊《かたまり》がおかれました。妬《ねた》ましさににて嬉《うれし》く、悲《かな》しさににて懐《なつか》しい物思《ものおもひ》をおぼえそめたのです。蔵《くら》のまへのサボテンのかげにかくれては私《わたし》とおなしに眼《め》のわきに黒子《ほくろ》のある、なつかしいその人《ひと》のことを、人しれず思《おも》ひやるならはせとなつたのです。ですが私《わたし》は、その人《ひと》が私《わたし》の「生《う》みの母《はヽ》」であるといふことをたしかめるのを恐《おそ》れました。やつぱりよそのおばさんです。私は、さう思つてゐねばなりませんでした。
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窓《まど》のムスメ
中窓《ちうまど》の欄干《てすり》にもたれて雨《あま》だれをみてゐるムスメがあつた。
肩揚《かたあげ》のある羽織《はおり》には、椿《つばき》の模様《もやう》がついてゐた。髪《かみ
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