》はおたばこぼんにゆつてゐたやうに思《おも》はれる。
俯向《うつむ》いてゐたゆえ、顔《かほ》はどんなであつたかそれはわからない。
けれど、五月雨《さみだれ》の頃《ころ》とて、淡青《ほのあを》い空気《くうき》にへだてられたその横顔《よこがほ》はほのかに思《おも》ひうかぶ。
戸外《とのも》にはカリンの木《き》がうはつて、淡紅《うすくれなゐ》の花《はな》の香《か》が暗《くら》い雨《あめ》の庭《には》にたちまよふてゐた。
それが何時《いつ》であつたとも、そのムスメが誰《たれ》であつたとも今《いま》は知《し》るよしもない。
母《はヽ》にきけど、そんな窓《まど》は見《み》たことがないといふ。
姉《あね》にきけど、そのやうなムスメは知《し》らぬといふ。
その頃《ころ》よんだリイダアなどの絵《ゑ》の女《むすめ》かとおもふけれど、それもたしかでない。
ムスメはつひに俯《うつむ》いたまヽ、いつまでも/\私《わたし》の記臆《きおく》に青白《あをじろ》い影《かげ》をなげ、灰色《はいいろ》の忘却《ばうきやく》のうへを銀《ぎん》の雨《あめ》が降《ふ》りしきる。
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     炬燵《こたつ》のなか
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