…母様《かあさま》」
「なあに」
「お……お鶴《つる》は死《しな》ないんですねえ」
[#改ページ]



     母《はヽ》



二人《ふたり》の少年《せうねん》が泊《とま》つた家《いへ》は、隣村《りんそん》にも名《な》だたる豪家《がうか》であつた。門《もん》のわきには大《おほ》きな柊《ひいらぎ》の木《き》が、青《あを》い空《そら》にそヽりたつてゐた。
私《わたし》どもは柱《はしら》や障子《しやうじ》の骨《ほね》の黒《くろ》ずんだ隔座敷《ざしき》へとほされた。床《とこ》には棕梠《しゆろ》をかいた軸《ぢく》が掛《かヽ》つてゐたのをおぼえてゐる。
「健作《けんさく》の母《はヽ》でございます。学校《がつかう》ではもう常住《じやうぢう》健作《けんさく》がお世話様《せわさま》になりますとてね」
とお母様《かあさま》は言《い》はれて、私《わたし》の顔《かほ》をしみ/″\情《なさけ》ぶかい眸《ひとみ》でみられた。
私《わたし》は眼《め》をふせて、まへにおかれた初霜《はつしも》の皿《さら》の模様《もやう》へ視線《しせん》をやつてゐました。
「まあ」
と、思《おも》ひもかけぬ声《こえ》におどろいて、
前へ 次へ
全14ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
竹久 夢二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング