つてゐて、それを引けば畫室の鈴が鳴る仕掛になつてゐた。その鈴を引く數が同志の間だけに暗號を持つてゐた。
 ある夜、私は一人の若い娘と二人きりでその青い家に住んでゐたのだが、鈴がけたたましく鳴つて「青い家が襲はれてゐるから、すぐ遁げよ」といふ信號であつた。
「お前はお家へお歸り、二人一所に遁げることは出來ないから」私は娘にさう言ふ。
「いゝえ、あたしはあなたと別れるのは死んでもいやです。それに世のために捧げた身體です。どうなつても構ひません」
「二つの神に仕へることは出來ない。世の中のためならどこにゐても出來る。さ、もう時がない」
 夜はもうほのぼのと白みかけて、刷ガラスが紫色に見える。私は先づ、女を遁すために露臺へ通じた扉《ドア》を開けた。ひやりと朝の氣が胸へ流れこんだ。川だけが異常に明るい。ふと川下へ視線をやると五六町下の橋のあたりに、二十人ばかりの人間が急いでこちらへやつて來る姿勢をしてゐる。それがの川淺瀬で、ほのぼのと銀色をしてゐる川面に黒い影が動いてゐるのだ。
「おい、來たよ。白鳥橋までやつて来た」
 私はまだ川下を瞶めたままさう叫んだ。
「君ピストルを持つてゐるかい」いつの間
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