を參考にして描いたのだ。この自畫像はダ・ヴインチの作品を見て畫いたのだ」と言ふ。「だから惡いわけはない」やうなことを、私の批評の後で彼は言ふのだ。
ルーベンスは日本になくたつていいし、ダ・ヴインチは世界に一人あればもう澤山だと思つたが、この青年に言つても無駄だから、その事は默つて歸した。
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白晝夢
夢を見てゐるのかも知れないが、近頃、夢を覺えてゐない。前の頃は寢牀《ねどこ》へ入つて眠りつく前に、今夜もあすこへ行けるんだなと、ぼんやり怡《たの》しいあすこを考へながら、枕にしつかり頭を埋めたものだつた。あすこといふのがどこだか、いま覺めて思ひ出しても浮んで來ないが、なんでも恰しい場所で、うとうと眠りに落ちてゆく、あの羽化登仙の瞬間には、そのあすこが、昨夜のあすこだと、おぼろげに形をなしてゐるのだ、かういふ瞬間は、もう夢の入口らしいがこの頃はあの恰しい所へも遠くなつてしまつた。
世俗に色彩の夢を見ないといふが、ゴツホなどは夢と現《うつゝ》をごつちやにして、晩年あの黄色な繪具でカンバスを塗りこくつたのらしい。
氣が狂つてくると黄色い繪具を盛んに使ふといふが、去年死
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