、博物館を展覽會のために貸してくれる好い條件で、すゝめてくれたが、何だか外國へゆきたくなかつたのでいまだに約束を果さないでゐる。今にしておもへばあの時が最も好い機會だつたのだ。今は、外國で展覽會をよしやつても、あの頃のやうな純粹な感激を持つことは出來ないだらう。
 その後、フランスの後期印象派、未來派、三角派などが日本の畫学生に影響を與へた當時の仲間話はあるが、これだけにしておかう。
 讀者諸君の中に、將來畫をやらうと思ふなら、私の通つたような道を歩いてはいけない。やはり正規に中學、美術學校にいつて、帝展でも何でも出品して、やはり世間的に表通りを歩いてエラクなる方が好い。裏道は、萬人に向かない。
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    青い窓から

   無宿の神樣
 歌集「寂光」の會のくづれが東洋軒の地下室を出ると、銀座の方へ歩くものと濠端の方へ行くものと二組に別れた。
「君はどちら?」
 と誰かゞ聞いた。今夜は何處へいつて泊らうか決つてゐなかつた自分は、ちよつと考へる風をしたが――その實、考へてなんか居なかつたが、
「こつちにせう」
 さう言つて濠端の方へゆく一團に加はつた。
「君は此頃何處にゐるん
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