心地よく住んだ日とて所とてないのが思はれる。でも、東京の市内ではどんな大厦高樓を見てもついぞ好ましいと思つた事はないが、田舍で北に山を持ち、南に果樹園、菜園、田畑を持つた白壁の家を見ると、今は人手に渡つて住むべくもない生れ故郷の家屋敷がなつかしまれる、「業もし成らずんば死すとも歸らず」と言つて郷關を出たのだが、そも/\業とは何であつたらう。
 ある科學者は、幾千年の後には人類が跡を絶ち、バチルスが代つて地球を支配することを豫言してゐる。ある社會學者は浮世を住みよくするために、命をかけて生活組織を改造しようとしてゐる。住宅の改良といふことも、つまりはそこまで押つめて行かねばなるまい。さてそうなれば、わけもなく住心地よき住宅は自ら造られる時なのだが、それまで待つてゐなくてはならないだろうか。
 子供の自由畫という事が事新しく言出されたが、一時やかましかつた自由[#「自由」は底本では「自田」]戀愛、自由結婚とおなじやうに、もつと深いところまで問題にしないで是非曲直をきめてしまつたせゐか、昔ながらに戀は曲者で、結婚は家庭行事だ。必ずしも庭園を公開するだけの意味でなく、自由住宅の時代は來ないもの
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