わけてもジヤアナリズムから來る思想的文化が渦をまいて、調和しないで、消化されないでゐるやうです。ある人が京都を評して、中樞神經のない思想生活のない田舍町だと言つたことは一面の觀察だと思ひます。しかし、京都人には恐るべきアナボリツクな所がある。ほんたうに人間が、人類の一人として愛に充ちた正しい純な生活を生活せうという誠實は、少しもないやうに見える。ほんとのことを決して言はない、こちらがほんとのこと言ふのを不思議がるばかりでなく裏をかいて、まるで反對な意味に取つてゐることが多い……。
 ……京都の女は皆それ/″\に市價を持つてゐることは、恐るべき進化か或は羨むべき退化です。古代ブリトン人の婚姻制度よりも徹底的に優秀な習慣を持つて居る。祇園の女で千や二千の貯金のない舞妓はないと聞いてゐます。普通の家庭の女でも、自分の所有に屬する着物を男に作らせるとか、良人に内密で金を貯へておくことは、極普通のことになつてゐるらしい。私が使って居た京都生れの女が「私も身賣りをしませうかしら」とある時都踊りを見せての歸り路で、眞面目に言ったのを聞いて驚いたことがあります。
 食ふに困るからといふのではない、どう
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