くことにした。
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京の六波羅に、豌豆の出來る畑がある。口へ入れると淡雪のやうに溶けて、しかもねつとりと身につくやうに甘い。同じ苗を移しても他の土地では育たないさうで、思ひ付きをほめられたさに東京の上司氏に贈ると「上方の野菜物は甘い、關東に食へるものなし、江戸は穢土なり」といふ意味のハガキを貰つたことがある。京の女は、この豌豆の味ひを持つてゐるやうだ。他の土地ではとても育ちさうにもない、郷土的な色調を持つてゐる。
「江戸者でなけりやお杉は痛がらず」という川柳がある。昔、伊勢の古市でお杉お玉が三味線を彈いてゐた。諸國の觀光客が面白半分に顏と言はず手と言はず投錢をしたのださうなが、江戸の客が一當大きな奴を投げるのでさう言つたもので、江戸つ兒の気前を見せたものである。
所謂、江戸つ兒には、日本人なら誰にでもなれそうな氣がするが、上方者はさうは行きさうもない。
大阪の町人は、素晴しく生活力が旺盛で、實に執着力が強い。男も女も非常に現實的で實際的で肉感的だ。生活と趣味との間に確然と川を隔てゝゐる。
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最近ある人の手紙に「また芝居の書割りのやうな雪が降
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