然墜落して可惜二十有餘の若木の花を散らせてしまつた。有意か無意か嬌艶牡丹のごとき藝妓小富、崇高百合の如きフランスの少女エンミイ、清楚バラの如き吉本將軍令孃美彌子によつてすべての祕密は物語られ訴へられ見る人悉く泣かざるなし。
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と書いてある。
天野飛行中尉と相許してゐる將軍吉本の愛孃美彌子は、人知れず中尉を横濱の埠頭に送つて、海の方を向いて立つたまゝの幕切れは繪のやうでした。フランスの少女エンミイが天野中尉の友情に感じ、身が獨探の嫌疑を受け中尉に累を及ぼすことを悔いて鐡道自殺をしたという報を聞く中尉の思ひ入れで「なんだ酒だ、酒だ」という幕切れの澤田の藝は高田と高島屋とを交ぜて、それにこの人獨特の東京語とも地方語ともつかない一種の訛りのある言葉が、マンネリズムと感じない程度に話されてゐたのは、井上のあの京都のアクセントで話す東京語と好い對をなして面白いと思ひました。
芝居の役々に就いての批評や筋の運びを、おときさんに話してもきつとつまらないからもう止めよう。故中尉のために多くの觀客が事實として實感的な涙をこぼしたことを、おときさんにお知せすれば好いのです。
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