らくこれが終りでせう。
Sさん。
京都は夏のゆくことが早う厶います。夕方になると祇園囃の笛の音が、四條の方から聞えて來ます。やがて晝間から戸をおろして店先きへ屏風をならべ、軒下で「じんべい」をきた子供達がギヤマンで作つたペコペンを鳴らし、大僧小僧は屏風のまへで將棋をさし、雪洞のかげでは中京のいとはんが打水した庭先きで團扇の風をやる景色を見るのも、遠くはないでせう。
今日から文樂一座が南座へかゝるさうだし、盆興行には、扇雀一座のぼんち芝居がかゝるさうだからいづれまた改めて書き送ります。
○
おときさん。
君にも隨分暫く逢ひませんね。君の兄さんが飛行機から落ちてなくなつた時、私は旅にゐて新聞の記事でその事をよんだ。私でさへずしんと高い所から落されたやうな氣がした。人傳にも私を飛行機へ乘せてやると言つてゐたし、私も乘つて見たいと思つてゐたことがふいになつてしまつた。身勝手なことだがさう思つた。現在妹のおときさんの身にすれば、あんな死方をした兄をどんなに悲しんでおあげだつたかと、すぐにも手紙を書きたかつたけれど、つひのび/\に今日になつてしまつたのです。それが急に思
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