感じるだらう。木屋町の倡家で「幾時頃だらう」とある客がたづねたら傍の舞姫は「待つてお居やすや」と言ひながら靜かに立つて露臺へ出て川向ふの寺を見てゐたが「お寺の門が閉つたさかい五時頃だすやろ」と言つたといふ。電車の停留所さへ毎日違ふ京都の街に一秒二秒を爭ふ正確な午砲の必要が何處にあらう。
A君。私はほんたうに京都の街を愛してゐる住民の一人です。
○
Sさん。
たしか去年の夏大阪の柳屋でお目にかゝつて以來お目にかゝりません。あなたの東京の話やいたこや松岸の話も聞きたいと思ひながらまだ逢ふ時がないのを殘念に思つてゐます。京都の六月には何もこれと言つて書くやうな芝居もありませんでした。中旬に伊庭孝の一座と言ふよりは高木徳子の一團がと言つた方が好いかも知れませんが歌舞伎座へ來ました。チヨコレート兵隊以來フアストの惡魔以來、伊庭君の舞臺を知らない私も、徳子との噂も、演伎座のいきさつも風のたよりには聞いてゐたけれど、かうした旅先きでこんな芝居を見るのも不思議な氣がします。そして私は、徳子がアメリカの田舍を曲馬師のサアカスに加はつて俗受けの鄙《ひな》唄を歌つて踊つた時代をこそ見
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