と思つて「どんな風に好いのですか」とたづねると「道が好いでせう、だから自動車がゆれないで大好き」といふのだ。なるほど宮城前廣場のは、自動車散歩者にとつては玄海灘であるわけだ。赤坂の東宮御所前などは自動車で走らせるには快適な道だらう。東京の名所も、愉快な街もかうしてだんだん變つてゆくのだ、かうなつてくると、清水谷公園へゆくあの昔めかしい辨慶橋も、自動車散歩者にとつては、是非、石の橋でなくてはなるまい。あすこには何といふ町だつたか、赤坂帝國館の裏の虎屋といふ名代の菓子屋のある町から田町へかけても好い街だ。
それから四谷見附の麹町十何丁目かのあの一丁ばかりの間の裏通りも好い。いつか有島生馬さんと庭の空井戸にかける竹の簾を註文にいつて、生馬さんに注意せられて見た藥屋もよかつた。
あんな家を寫生して殘しておかないと、もう間もなく見られなくなるだろう。
市ヶ谷見附から入つて三番町へゆく電車通りに一軒菓子屋がある。何とか饅頭をうる家で、窓飾に古代人形を出してある家で、あの人形が好きでよく、饅頭を通りすがりに買ひにいつたが、震災でどうなつたかと案じてこのほどいつて見たら、店つきは變つてゐたが人形
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