は、春太郎も悲しくなるし、笑うときには、やはりうれしくなって笑いだすのでした。
 ジャッキイのお母様が死んでから、ジャッキイは、育てられたお祖父《じい》さんお祖母《ばあ》さんに別れて、お母様の形見のヴァイオリンを、たった一つ持ったままで、街へ出てゆきました。
 ちょうど、これはクリスマスの晩のことで、立派な家の窓から暖かそうな明りがさして、部屋のまん中には、大きなクリスマス・ツリーが立っていていい着物をきた子供たちは、部屋の中を飛廻っていました。ある家の食堂の方からは、おいしそうな御馳走《ごちそう》の匂《におい》がしているのでした。
「ぼくには、何にもないや。お家《うち》も、クリスマス・ツリーも、御馳走も。お父様《とうさん》も、お母様もないや、なんにも、ないや」
 ジャッキイはとぼとぼと歩きました。そのうちお腹《なか》はへってくるし、寒さはさむし、そのうえ雪がだんだん降りつもって、道もわからず、それに一番わるいことは、どこへいったらいいか、ジャッキイにはあてがないことでした。
 玩具屋《おもちゃや》の飾窓《ショウウィンドウ》には大きなテッディ熊《ベア》が飾ってあります。玩具屋の中から、
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