郎《はるたろう》はそう言って、お母様にせがみました。
「でも一人ではいけませんよ。お姉様《ねえさん》とならいいけど」
「うん、じゃあお姉様と、ね、そんならいいでしょう」
 春太郎はお姉様のとこへ飛んでいって、たのみました。
「お母様は、行ってもいいっておっしゃったの?」
「ええ、お姉様とならいいって」
「じゃ、行ってあげるわ」
「うれしいな、これからすぐですよ」
 春太郎は、お姉様につれられて、キネマ館へゆきました。二階の正面に坐《すわ》って、ベルの鳴るのを待っていました。
 しばらくすると、ベルが鳴って、ちかちかちかちかと、フィルムの廻《まわ》る音がしだしたかとおもうと、ぱっと、ジャッキイの姿が、眼《め》のまえにあらわれました。ぱちぱちぱちと、春太郎も思わず手をたたきました。
「ここに、カリフォルニアの片田舎《かたいなか》に、ひとりの少年がありました。その名を……」
 と弁士がへんな声を出して、説明をはじめました。春太郎は、弁士の説明なんかどうでもいいのでした。ただ、ジャッキイが出てきて、笑ったり、泣いたり、歩いたり、坐ったりすれば、それだけで十分いいのでした。ジャッキイが泣くときに
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