、汽缶車の都合をきいて来ようか」
 北山薪炭は、停車場へ出かけました。そこにはすばらしく大きな汽缶車がもくもくと黒い煙をはいているのを見かけました。
「汽缶車さん、ひとつおいらをのっけて、花子さんの町までいってくれないか」
 北山薪炭が、そう言いました。
「いけねえ、いけねえ。今日はおめえ、知事さまをのっけて東京さへゆくだよ。そんな汚ねえ炭なんかのっけたら罰があたるよ」
 汽缶車は、そう言って、けいきよくぶつぶつと出ていってしまいました。
 すると、そこに中くらいの大《おおき》さの汽缶車が一ついました。北山薪炭はそばへよっていって、
「こんちは、君ひとつ花子さんの町までいって貰《もら》えないかね。花子さんはおいらを毎日待っていらっしゃるんだ」
 と言いますと、いままで昼寝をしていた汽缶車は眼《め》をさまして、大儀そうに言うのでした。
「どうせ、遊んでいるんだからいってやってもいいが、なにかい、連中は大勢かい」
「そうさね、炭が三十俵に、薪《まき》が百束だ」
「そいつあいけねえ。そんな重いものを引っ張っていったら、脚も手も折れてしまわあ、せっかくだがお断りするよ」
「そんなことを言わない
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