玩具の汽缶車
竹久夢二
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)菫《すみれ》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から2字下げ]
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お庭の木の葉が、赤や菫《すみれ》にそまったかとおもっていたら、一枚散り二枚落ちていって、お庭の木はみんな、裸体《はだか》になった子供のように、寒そうに手をひろげて、つったっていました。
[#天から2字下げ]つづれさせさせ はやさむなるに
あの歌も、もう聞かれなくなりました。北の山の方から吹いてくる風が、子供部屋の小さい窓ガラスを、かたかたいわせたり、畑の唐もろこしの枯葉を、ざわざわゆすったり、実だけが真黒《まっくろ》くなって竹垣によりかかって立っている日輪草《ひまわりそう》をびっくりさせて、垣根の竹の頭で、ぴゅうぴゅうと、笛をならしたりしました。
「もう冬が来るぞい」
花子のおばあさんはそう言って、真綿のはいった袖なしを膝《ひざ》のうえにかさねて、背中をまるくしました。
「おばあさん、冬はどこからくるの?」花子がたずねました。
「冬は北の方の山から来るわね。雁《がん》がさきぶれをして黒い車にのって来るといの」
「そうお。おばあさん、冬はなぜさむいの?」
「冬は北風にのって、銀の針をなげて通るからの」
「そうお。おばあさんは冬がお好き?」
「さればの、好きでもないし嫌いでもないわの。ただ寒いのにへいこうでの」
「そうお」
花子は、南の方の海に近い町に住んでいましたから、冬になると北の方の山国から、炭や薪《まき》をとりよせて、火鉢に火をいれたり、ストーブをたかねばならぬことを知っていました。おばあさんのために冬の用意をせねばならぬと、花子は考えました。そこで花子は薪と炭のとこへあてて手紙を書きました。
[#ここから2字下げ、29字詰め、罫囲み]
ことしもまた冬がちかくなりました。おばあさんが寒がります。どうぞはやく来て下さいね。
花子
北山薪炭様
[#ここで字下げ終わり]
北山薪炭《きたやましんたん》は、花子の手紙を受取りました。
「そうだそうだ。もう冬だな、羽黒山に雪がおりたからな。花子さんのところへそろそろ行かずばなるまい」
北山薪炭はそう言って、山の炭焼小屋の中で、背のびをしました。
「どれ、ちょっくらいって
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