、汽缶車の都合をきいて来ようか」
北山薪炭は、停車場へ出かけました。そこにはすばらしく大きな汽缶車がもくもくと黒い煙をはいているのを見かけました。
「汽缶車さん、ひとつおいらをのっけて、花子さんの町までいってくれないか」
北山薪炭が、そう言いました。
「いけねえ、いけねえ。今日はおめえ、知事さまをのっけて東京さへゆくだよ。そんな汚ねえ炭なんかのっけたら罰があたるよ」
汽缶車は、そう言って、けいきよくぶつぶつと出ていってしまいました。
すると、そこに中くらいの大《おおき》さの汽缶車が一ついました。北山薪炭はそばへよっていって、
「こんちは、君ひとつ花子さんの町までいって貰《もら》えないかね。花子さんはおいらを毎日待っていらっしゃるんだ」
と言いますと、いままで昼寝をしていた汽缶車は眼《め》をさまして、大儀そうに言うのでした。
「どうせ、遊んでいるんだからいってやってもいいが、なにかい、連中は大勢かい」
「そうさね、炭が三十俵に、薪《まき》が百束だ」
「そいつあいけねえ。そんな重いものを引っ張っていったら、脚も手も折れてしまわあ、せっかくだがお断りするよ」
「そんなことを言わないでいっておくれよ。花子さんが待ってるから」
「うるせえな、昼寝をしている方がよっぽど楽だからな」
そう言って、ぐうぐう眠ってしまいました。
そのとき、北山薪炭《きたやましんたん》の前へ、ちいさいちいさい、玩具《おもちゃ》の汽缶車が出て来ました。
「薪炭さん、さっきからお話をきいていると、お気の毒ですね。ぼくがひとつやって見ましょうか」
そう呼びかけられて、見ると、とても小さい汽缶車です。
「実際困っているんだが、君いってくれますか。だけど見かけたところ、君はずいぶんちいさいね。これだけのものをひっぱってゆけるかね」
「ぼくもわからないが、なあに一生懸命やって見るよ」
「じゃあ、ひとつやって貰《もら》おうか。おれたちもせいぜい軽くのっかるからね」
玩具の汽缶車は、三十俵の炭と、百束の薪とを引っ張って、停車場を出発しました。停車場の近所の平地《ひらち》を走るときは楽だったが、国境の山へかかると路《みち》は急になって、玩具の汽缶車は汗をだらだらながして、うんうん言っています。
「なんださか、こんなさか、なんださか、こんなさか」
元気の好《よ》いかけごえばかりで、汽缶車はなかなか進め
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