ろすがた》のなかれけり。
[#改ページ]
かへらぬひと
花をたづねてゆきしまま
かへらぬひとのこひしさに
岡《をか》にのぼりて名《な》をよべど
幾山河《いくやまかは》は白雲《しらくも》の
かなしや山彦《こだま》かへりきぬ。
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よきもの
「よきものをあたへむ」ときみのいふゆゑ
ゆびきりかまきりいつはりならじと
きみのいふゆゑ
門《もん》のそとにてきみまちぬ。
井戸《ゐど》のほとりの丁子《ちやうじ》の花よ。
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見知らぬ島へ
ふるさとの山をいでしより
旅にいくとせ
ふりさけみれば涙わりなし。
ふるさとのははこひしきか。
いないな
ふるさとのいもとこひしきか
[#改丁、挿し絵入る、133]
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いないないな。
うしなひしむかしのわれのかなしさに
われはなくなり。
うき旅の路《みち》はつきて
あやめもわかぬ岬《みさき》にたてり。
すべてうしなひしものは
もとめむもせんなし。
よしやよしや
みしらぬ島の
わがすがたこそは
あたらしきわがこころなれ。
いざや いざや
みしらぬ島へ。
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てまり
‥‥‥ひや ふや おこまさん
たばこのけむりは丈八《じやうは》っあん‥‥
とんとんとんとつくてまり
しろい指からはなれては
蝶《てふ》が菜《な》のはをなぶるよに
やるせないよにゆきもどり。
ゆらゆらゆれる伊達帯《だらり》から
江戸紫《えどむらさき》の日がくれる
‥‥‥みや よや
夕霧さん‥‥‥‥‥
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たもと
そつといだけばしんなりと
あまへるやうにしなだれかゝる
――わたしのたもと。
はづかしさの顔《かほ》をおほへど
つゝむにあまるうれしさがこぼれでる
――わたしのたもと。
わたしのかなしみも
わたしのよろこびも
みんなおまえはしつてゐる
――にくらしいたもとよ。
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かげりゆく心
母にそむきしその夜《よ》より
白壁《しらかべ》によるならはせに
露草《つゆぐさ》の花さきにけり。
こゝろもとなき夕月《ゆふづき》の
夢の小径《こみち》にきえゆけば
ねもたえだえに虫なけり。
[#改丁]
雀の子
とこどんどこぴいひやらひやあ
麦《むぎ》の畑《はたけ》を風がふく。
役者《やくしや》の群《むれ》をはぐれたる
子供|心《ごゝろ》のはかなさは
‥‥‥うちの裏《うら》のちさの木に
雀《すゞめ》が三羽とうまつて
一羽の雀がいふことにや
ゆうべござつた花嫁御《はなよめご》
なにがかなしゆてお泣きやるぞ
おなきやるぞ‥‥‥
ゆうべの芝居のその唄《うた》が
いまのわが身につまされて
ほろりほろりとないてゆく。
[#改丁、挿し絵入る、145]
[#改丁]
異国の春
につぽんムスメのなつかしさ
牡丹《ぼたん》芍薬《しやくやく》やま桜《ざくら》
金襴緞子《きんらんどんす》のオビしめて
ふりのたもとのキモノきて
丹塗《にぬり》のポクリねもかろく
からこんからことゆきやるゆえ
どこへゆきやるときいたらば
娘《むすめ》ざかりぢや花ぢやもの
後生《ごしやう》よいよに寺《てら》まゐり。
寺まゐり。
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白壁へ
ふたりはかきぬ。
「しらぬこと」
ふたりはかきぬ。
「よろこび」と
ふたりはかきぬ。
「さよなら」と。
底本:「どんたく」中公文庫、中央公論社
1993(平成5)年7月10日初版発行
底本の親本:「どんたく」実業之日本社
1913(大正2)年11月初版発行
入力:星夕子
校正:Juki
2000年10月12日公開
青空文庫作成ファイル:
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