きあげぬ。
「死《し》んだ死んだ」と踊《をど》りつつ
忠太は村をふれあるく。
白い衣《きぬ》きた葬輦《さうれん》が
暑い日中《ひなか》をしくしくと
鳥辺《とりべ》の山へいりしかど
そは何事《なにごと》かしらざりき。
ひとりは墓《はか》へゆきければ
七《なゝ》つの指《ゆび》を六《む》つおりて
一《ひと》つのこしてみたれども
死んでなくなることかいな
いつか墓よりかへりきて
七つの桃《もゝ》をわけようもの。
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 猿と蟹

わたしが猿《さる》で妹《いもうと》が
あはれな蟹《かに》でありました。

猿はひとりで※[#「※」は「木へん+弟の下半分のような字」、104−7]《かき》の実を
木に腰《こし》かけてたべました。
「兄《にい》さんひとつ頂戴《ちやうだい》よ」
あはれな蟹がいひました。
「これでもやろ」と渋※[#「※」は4行上の「かき」と同じ字、105−1]《しぶがき》を
なげてはみたがかあいそで
好《い》いのもたんとやりました。
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 加藤清正

紙の鎧《よろひ》の清正《きよまさ》は
虎《とら》を退治《たいぢ》の竹《たけ》の槍《やり》。
屋根《やね》のうへにて眠《ねむ》りゐし
猫《ねこ》をめがけてつきければ
虎は屋根よりころげおち
縁《えん》のしたへとかくれけり。

さすがに猛《たけ》き清正も
虎のゆくえの気にかかり
夜《よ》な夜《よ》なこわき夢《ゆめ》をみき。
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 禁制の果実

白壁《しらかべ》へ
戯絵《ざれゑ》をかきし科《とが》として
くらき土蔵《どざう》へいれられぬ。
よべどさけべど誰《たれ》ひとり
小鳥《ことり》をすくふものもなし。
泣きくたぶれて長持《ながもち》の
蓋《ふた》をひらけばみもそめぬ
「未知《みち》の世界」の夢の香《か》に
ちいさき霊《たま》は身《み》にそはず。

窓より夏の日がさせば
国貞《くにさだ》ゑがく絵草紙《ゑざうし》の
「偐《にせ》紫《むらさき》」の桐《きり》の花《はな》
光《ひかる》の君《きみ》の袖《そで》にちる。

摩耶《まや》の谷間《たにま》にほろほろと
頻迦《びんが》の鳥《とり》の声きけば
悉多太子《しつたたいし》も泣きたまふ。

魔性《ましやう》の蜘蛛《くも》の糸《い》にまかれ
白縫姫《しらぬひひめ》と添臥《そひぶ》しの
風は白帆《しらほ》の夢をのせ
いつかうとうとねたさうな。


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